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東京地方裁判所 平成10年(ワ)12177号 判決

原告 佐久間次男

右訴訟代理人弁護士 鈴木守

被告 国

右代表者法務大臣 臼井日出男

右指定代理人 黒澤基弘

同 川上忠良

同 瀬戸勲

同 畑中進

同 中村誠

同 三輪登美雄

同 奥一徳

同 藤澤勉

被告 ナブコシステム株式会社

右代表者代表取締役 原信義

右訴訟代理人弁護士 鳥飼重和

同 多田郁夫

同 森山満

同 遠藤幸子

同 村瀬孝子

同 鈴木仁

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自三〇〇万円及びこれに対する平成七年八月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が国立東京逓信病院の電動式開閉扉を修理しようとしたところ、被告国及び被告ナブコシステム株式会社の右扉制御盤カバーの設置・管理の瑕疵及び保守管理上の過失により、右カバーが落下して頭部打撲等の傷害を負ったと主張して、被告国に対しては国家賠償法二条一項に基づき、被告ナブコシステム株式会社に対しては民法七〇九条に基づき、右傷害による精神的苦痛等に対する慰謝料三〇〇万円及び右事故発生日の翌日である平成七年八月三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を請求した事案である。

一  争いのない事実等(認定事実には証拠を記載する。)

1  当事者

原告は、中央ビルメンテナンス株式会社(以下「中央ビルメンテナンス」という。)の従業員として、国立東京逓信病院(以下「本件病院」という。)中央監視盤室に常駐し、電気設備保守業務に従事していた者である。

2  被告ナブコシステム株式会社(以下「被告ナブコ」という。)は、平成七年五月、本件病院診療棟三階の集中治療棟(以下「ICU」という。)汚物処理室の電動式開閉扉(以下「本件ドア」という。)のドアが開き人が通り過ぎてからドアが閉まるまでの時間を調整するオープンタイマー調整作業(以下「本件作業」という。)をした。(丙二)

3  同年八月二日、本件病院ICU勤務の看護婦池田一美(以下「池田」という。)から原告に対し、本件ドアが開いたまま閉まらなくなったので修理してほしい旨連絡があり、原告が本件ドアを修理しようとしたところ、本件ドア上部に取り付けられている制御盤カバー(以下「本件カバー」という。)が落下して原告の顔面上部に激突し、原告は頭部打撲、顔面挫創等の傷害(以下「本件傷害」という。)を負った(以下この事故を「本件事故」という。なお、本件事故の原因については後記のとおり争いがある。)。(乙二、弁論の全趣旨)

二  争点

1  本件事故の原因

(原告の主張)

本件事故は、本件カバーがはずれて本件ドア上部の滑車に引っかかってドアが開閉しなくなっていたところ、右カバーの左下の固定用のビスが欠落していたか、固定が不完全であったために、右カバーが右下のビスのみで固定された状態となっており、そのため右下のビスを支点にして右カバーがぶら下がる形で落下して、汚物処理室の内部状況を確認するために右ドア開口部から同室内に頭部を入れた原告の顔面上部に激突したものである。

(被告らの主張)

本件事故は、原告が、滑車が脱輪して作動しなくなっていた本件ドアを無理矢理開けようとして、右ドアの下部で床面が削られるほどの強い力を加えた結果、右ドア上部の滑車が本件カバーを押し上げて、右カバーが支持金具からはずれて落下したために発生した。

2  被告ナブコの責任

(原告の主張)

被告ナブコは、本件ドア及び制御盤の保守管理を担当しており、本件作業の際、本件カバーがはずれて落下しないようにカバー固定用のビスを確実に締め付けるべき注意義務があったにもかかわらず、右義務に違反し、ビス締めを欠落したか又はビス締めが緩かったために右カバーの固定が不十分であり、右カバーが落下して本件事故が発生した。

(被告ナブコの主張)

被告ナブコは本件ドアの保守管理を担当しておらず、右保守管理業務は中央ビルメンテナンスの受託業務であった。本件作業は、被告ナブコが個別的に病院からの注文を受け、有償で実施したものである。

また、本件作業は、オープンタイマー調整作業であり、右作業のために本件カバーを開く必要はなく、実際に右カバーを開いたこともないから、作業担当者がビスを締め忘れたことはない。

3  被告国の責任

(原告の主張)

本件カバーは、本件作業から本件事故までの間、固定が不完全なまま放置されており、そのために本件事故が発生したのであるから、これは国家賠償法(以下「国賠法」という。)二条一項の「公の営造物の設置又は管理に瑕疵があった」場合に該当する。

(被告国の主張)

国賠法二条一項の営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、具体的な営造物が通常いかなる性質や設備を備えるべきかについては、当該営造物の構造、その構造自体の危険性の程度、用途、場所的環境、利用状況等諸般の事情を総合して、具体的に通常予想される危険の発生を防止するに足りると認められる程度のものであることを必要とし、かつこれをもって足りるというべきである。

本件カバーが落下する事故は本件事故以前にはなかった上、本件事故の原因は、前記のとおり原告が故障した本件ドアを無理矢理開けようとして、右ドア下部で床面が削られるほどの強い力を加えた結果、右ドア上部の滑車が本件カバーを押し上げて、右カバーが支持金具からはずれたためであり、通常の利用状況では本件カバーが落下することはなく、原告の異常な作業によって落下したのであるから、本件ドアは営造物が通常有すべき安全性を欠いていたとはいえず、本件ドアの設置又は管理に瑕疵があったとはいえない。

また、本件傷害は、前記のような原告の通常の利用を超えた異常な作業によって本件カバーが落下したことによって発生したものであるから、本件ドアの設置又は管理の瑕疵と本件傷害との間に因果関係はない。

さらに、原告は、中央ビルメンテナンスの従業員として、本件ドアを含む電気設備の保守管理業務を担当していたにもかかわらず、前記のような異常な作業を行った結果負傷したのであり、自己の任務を十分果たさない結果負傷したというべきであるから、原告の請求は権利の濫用である。

4  損害

(原告の主張)

原告は、本件傷害により、今日まで頭痛・吐気の症状が続き、就労が困難となったため、中央ビルメンテナンスを退職することを余儀なくされ、甚大な経済的・精神的損害を被った。右損害を慰謝するには少なくとも三〇〇万円が必要である。

(被告国の主張)

原告には労災保険給付として本件負傷に対する療養補償及び休業補償が支払われているから、原告には経済的損害はない。

原告が中央ビルメンテナンスを退職したのは、定年退職を間近に控えた原告の個人的事情によるものであるから、本件負傷と原告の退職とは因果関係がない。

本件負傷は平成七年一〇月一八日に本件病院から治癒の認定がされているから、本件事故と原告主張の頭痛・吐気との間には因果関係がない。

(被告ナブコの主張)

原告が中央ビルメンテナンスを退職したのは、定年年齢に達したからであり、本件事故とは関係がない。

第三当裁判所の判断

一  争点1(本件事故の原因)について

1  争点1について判断するに、前記争いのない事実等及び証拠(甲五、乙一の1ないし3、二、丙一の1ないし4、五、六、原告本人)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件ドアは、看護婦等が両手に物を持ったままドアの開閉ができるように、ドア下部の所定の位置(フットスイッチ)に足を入れるとセンサーが反応して、自動的に開閉する仕組みになっている。そのため、本件ドアは、ドア上部の滑車がレールに乗り、ドアを吊り上げているため、常時床面から約一センチメートルほど浮いた状態になっている。そして、本件カバーは、右レール及び滑車の外側に位置し、支持金具に引っかけられた状態で固定されており、持ち上げて外側に動かせばはずれる仕組みとなっており、振動等によるぐらつきを防止するため、その下部をビスで留められている。

(二) 平成七年八月二日午後〇時一五分ころ、本件病院ICU勤務の看護婦主任である池田が本件ドアをフットスイッチで開けようとしたところ、ドア上部がずれており、開扉動作の途中で約一五センチメートルほど開いたまま停止した。池田は、本件ドアを手動に切り替え、両足を踏ん張り、両手で開けようとしたが、全く動かなかったため、原告に対し、これを修理してほしい旨連絡した。

(三) 原告は、右連絡を受けて池田とともにICU汚物処理室に赴き、片手で本件ドアを開けようとしたが開かなかったため、両手で強く開けようとしたところ、約二〇センチメートルほど開いたが、滑車が引っかかってそれ以上開かなくなった。

原告の右作業により、本件ドア下部の床面をくさび形に削り取る痕跡が残った(この点について、原告は自己の行為と無関係である旨主張するが、本件事故以前から右痕跡があったとする証拠はなく、原告もこの点に関して何らの供述もしていない上、原告は、池田が両足を踏ん張り、両手で開けようとしても動かなかった本件ドアを約二〇センチメートルほども両手で強く開けているから、原告の右作業によって右痕跡が生じたと認めるのが相当である。)。

(四) その後、原告がドアの開口部から汚物処理室内部に頭部を入れたところ、右カバーが支持金具からはずれて右下のビスを支点にしてぶら下がる形で落下して原告の額付近に当たり、原告は本件傷害を負った。

2  右認定事実によれば、本件ドアが開閉しなくなった時点では、本件ドア上部がずれており、正常であれば床面から約一センチメートルほど浮いているはずのドアが床面に接していたことなどが認められ、脱輪以外に本件ドアが作動しなくなる原因を考え難いことなどからすれば、本件ドアが脱輪していたものと考えられる。

これに対し、原告は、本件ドアが開閉しなくなった原因について、本件カバーがはずれてドア上部の滑車に引っかかったためと主張するが、本件カバーの左上部がはずれたとしても、本件カバーが滑車より外側に位置していることからすれば、滑車に引っかかるとは考え難いし、本件カバーが滑車に引っかかったとしても、滑車が脱輪していなければ本件ドアはレールに支持されたままであり、床面に接することはないから、原告の右主張は採用できない。

そして、前記認定事実によれば、原告は、脱輪した状態の右ドアに対し、両手で床面に痕跡を残すほどの強い力を加えて開けたため、本件ドア上部の滑車が本件カバーを押し上げた結果、引っかけられた状態で止まっているにすぎず、持ち上げて外側に動かせばはずれる仕組みの本件カバーが支持金具からはずれて右下のビスを支点にしてぶら下がる形で落下したものと認めるのが相当である。

二  争点2(被告ナブコの責任)について

原告は、被告ナブコが本件ドア及び制御盤の保守管理を担当しており、本件作業の際、本件カバーがはずれて落下しないようにカバー固定用のビスを確実に締め付けるべき注意義務があったのにこれを懈怠したと主張するので検討するに、被告ナブコが本件ドア及び制御盤の保守管理を担当していたと認めるに足りる証拠はないから、原告の主張はそもそもその前提を欠いている上、証拠(丙二、三、五、六)及び弁論の全趣旨によれば、被告ナブコから自動ドアの保守・点検作業等の外注を受けていた有限会社ラングの従業員石山隆一(以下「石山」という。)が平成七年五月八日に本件作業を行っているところ、右作業はオープンタイマー調整と呼ばれる作業で、本件カバーを開けなくともすることができるのであって、実際にも石山は本件カバーを開けることなく右作業を終えたことが認められるから、被告ナブコがビス締めを欠落したか又は不十分なビス締めをした事実を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。したがって、原告の右主張は理由がない。

三  争点3(被告国の責任)について

原告は、本件カバーは、本件作業から本件事故までの間、固定が不完全なまま放置されており、これが営造物の設置又は管理の瑕疵に該当すると主張するが、前記一において説示したとおり、本件事故は、原告が故障した本件ドアを無理矢理開けようとして、本件ドアの下部で床面が削られるほどの力を加えた結果、本件ドア上部の滑車が本件カバーを押し上げて、本件カバーが支持金具からはずれて落下したため生じたものであるし、本件事故以前に本件カバーが落下したなど本件ドアに通常の使用による危険性が発生していたと認めるに足る証拠はない。そうすると、本件ドアには通常の利用状況では本件カバーが落下する危険性はなく、原告の右行為は異常なものというべきであるから、本件事故は本件病院管理者において通常予測し得ないものといわざるを得ず、したがって、本件ドアが通常有すべき安全性を欠いていたとはいえないのである。よって、本件ドアの設置又は管理に瑕疵があったとはいえないから、原告の右主張は理由がない。

四  そうすると、その余の点を判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 都築弘 裁判官 土田昭彦 裁判官 伊藤清隆)

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